ロードバイクを漕ぐとき、シッティング(座って漕ぐ)に対して、ダンシング(いわゆるたち漕ぎ)があります。ダンシングの役割は、シッティングで疲れた筋肉をほぐしたり、最後のスプリントでもがくときなどに使用します。
ダンシングは、それだけで効率が良いわけでもなく、速いわけでもなく、楽なわけではありません。上手なダンシングの説明も難しいかと思います。これが正解というものが無いからかもしれません。
私もいろいろ試しながら疑問に思ったのが、「タイヤが通る道は、真っすぐがいいの?蛇行がいいの?」ということです。
ハンドルを振らなくても、体の重心を左右に振ると、勝手に自転車は蛇行します。これが良いことなのか?調べてみても、はっきりと書かれていません。
プロでは、コンタドールが、蛇行するダンシングをして、どんどん抜かしていくので、強さの象徴となっているようですが、プロでもまっすぐ走っている人の方が多いようです。
となると、素人の私らは、おとなしくまっすぐ走った方がいいのでしょうか?
私が試した感じでは、意外と蛇行すると、楽に進むことがわかりました。
それを、レースで証明する実力はないので、どうして楽になったのか、理屈を考えてみました。
ダンシングのやり方ですが、
・お尻を上げて、前後のバランスを取る
・引き足側を上げると、踏み込みの足に体重がかかる
・踏み込んだ足と逆側に車体を倒す
・下死点まで踏み込む前に、反対の足側に重心を移す
・バイクを立てる
・これを交互に繰り返す
です。
注意点としては、
・ハンドルに体重をかけすぎない
・バイクを倒しすぎない
・お尻をひかない
・下死点まで踏みすぎない
・体の軸をぶらさない
などです。
これに加えて、「休むダンシング」や「加速するダンシング」などもあり、やり方も変わってきます。
しかしながら、使いどころや目的として、「普段使わない筋肉を使って進む」ことや「シッティングで使い続けている筋肉を休める」などもあります。
例えば使わない筋肉を使うということは、上半身を使って豪快に体を揺らしたり、一見無駄な動きでロードバイクを進めることもあります。
ダンシングとシッティングの差を考えると、
・お尻を上げる
・体重を乗せて、ペダルを踏む
・瞬間的に体を持ち上げるので、速筋を使う(前もも)
・バイクを動かす(振る)
ですので、基本的には、それ以外はシッティングと同じです。
軽いダンシングは、ほぼシッティングのように、効率よく走ることが出来ます。
ダンシングでも効率よく進むには、
・腰は高く上げない
・まっすぐ進む
・体を振らない、軸をぶらさない
・踏み込みすぎない
となります。
シッティングとの違いは、体重を乗せるためにお尻を上げるか上げないかの違い程度です。
軽いダンシングは効率は良いのと、体重を使えて軽く加速が出来るので良いのですが、上半身などの筋肉はあまり使っていません。軽く速筋も使っています。
ダンシングは前もも(大腿四頭筋)を使います。ふわっと身体を持ち上げる(お尻を浮かす)ときに、瞬間的に速筋を使います。そのまま、体重をペダルに乗せていきます。この時は、体幹で体を動かさないようにしており、動的な筋肉は使っていません。
単純に言うと、左右片足ずつ、少し上げるだけのスクワットをしているのと同じです。
ダンシングの種類の中に、加速するダンシングがあります。速筋を惜しみなく使って、最大限の加速をします。そのため、何十秒も持ちません。
状況によって、加速しなければいけないときや、ゴール前に全力でダンシングを行います。足の速筋が疲れ切ってしまっても、まだ加速しなければならない時は、全身の残っている筋肉を使ってでも、前に進まなければならないため、めるだけ進ませるというものです。
他にも休むダンシングがあります。疲れた体を紛らわせる(?)漕ぎ方です。これは、基本的にはヒルクライム中に行います。(平坦で休むには、風よけに入って、足を止めればよいです)
ヒルクライムでは、長時間、高い強度で、ロードバイクを進めていますので、同じ筋肉に疲労が溜まります。他の筋肉を使いながら、意識的に休ませないと、筋肉が使えなくなって止まってしまいます。
そのなかで、「蛇行」して進むダンシングがあります。
なぜ蛇行して進むかというと、スケートやスキーのスケーティングの理論ではないかと考えています。
スケーティングは、横にかかる力を斜め前に進む力に変えています。つるつる滑る氷や雪の上で考え出された進みかたです。後ろに蹴っても、前には進まないからです。
ロードバイクはどうでしょうか?ペダルを踏めば後ろには行きません。タイヤはスリップしないよう、路面とは摩擦が大きくなっています。
しかし、タイヤは転がり抵抗を減らし、ハブは滑らかに回転するように作られています。真っすぐであれば、まるで氷の上を滑るかのように進みます。
スケーティングは、体やバイクが横に移動する力を、バイクも一度同じ方向に進めて、推進力を得ます。多少横方向に進みますが、ほとんどは進行方向に進む成分になります。ヨットで、風の吹く方向とずらして、ちょっと斜めに進んでいるのと似ています。
体を傾けた方向に、バイクを進めて、推進力を得ています。
ロードバイクは、車体を倒したり、ハンドルを曲げると、進む方向が変わります。
実は、物理の法則で言うと、物は進む方向に慣性が働きますが、左右への力はかかっていません。
例えば、つるつるの氷の上や宇宙の真空無重力の中をまっすぐ進んでいる物体を、90度向きを変えるには、そちらの方向に欲しいだけの力をかけてやらなければなりません。そして、進んでいた方向と逆の方向に、進む力と同じ力をかけないと止まりません。
要するに、本来行きたい方向に力をかけないと、そちらへは進みません。
しかし、車のように、前輪の方向を変えると進む向きが変わるのは、進む力をそのままにして、方向だけを変えることが出来るからです。それは、ジェットコースターのように、滑らかに回る車輪が、レールなどによって向きを変え、初速のエネルギーを無駄に使わずに、方向を変えながら進むことが出来る方法です。自転車で言うと、競輪場のバンクのようなもので、高速で、前輪をあまり動かさなくても、真っすぐ進むだけで、向きを360度変えてくれます。
これは何が言いたいかというと、ハンドルをきれば、蛇行で斜めに進んでいた方向を、進行方向に変えることが出来るということです。
激しくバイクを振るダンシングでは、体重をかける方向、バイクを傾ける方向は、前後方向ではなく、左右であることがわかります。
前輪を蛇行させるダンシングでは、横にいったん進ませておいて、それをハンドルで進行方向に向きを変えて進めることが出来ます。
ヒルクライムでは、漕ぐことをやめると、どんどん、バイクのスピードが落ちていきます。慣性があまり働かず(働いているのですが、重力に打ち消されられる)、止まりやすくなります。ケイデンスが落ちると、さらに上死点、下死点で、バイクが減速します。(ペダリングに合わせて、加速減速を繰り返しています)
この蛇行ダンシングでは、この死点を打ち消す効果があるのでは?と考えています。
動画で蛇行ダンシングを分析してみました。
進行方向がやや斜めなので、真っすぐの方向が正面ではありませんが、前輪のホイールの楕円の形から、前輪を振っていることがわかります。
上半身は、左右に振っていますが、頭のてっぺんからお尻までの軸がぶれていません。非常に美しいダンシングですね。
ペダリングと、前輪の動きを見てみます。
左写真から、左足踏み込み→左足下死点→右足踏み込み→右足下死点→左足踏み込み
になっています。
その時前輪は、
左から、左向き→進行方向→右向き→直進方向→左向き
となっています。
これから分析すると、踏み込む足と逆側にバイクを進め、バイクを倒しています。
これは、おそらくダンシングが出来る人は、自然に行っていると思います。
ペダリングの死点では、トルクがゼロ近く(ペダルを回す力が弱く)になるため、バイクのスピードが少し落ちます。これは、ヒルクライム特有の重力に引っ張られて減速しているためですが、これを軽減するために、前輪を斜めに上らせている(蛇行している)のではないかと考えます。
ダンシングでは、シッティングのように、2時~4時で力が出るのではなく、どちらかというと、下死点に近い、3時~5時(特に5時付近)に力がかかっているのではないかと思います。ですので、写真から、下死点にかかるところを過ぎる、5時~7時(11時から2時)に、力がかからずバイクのスピードが落ちるので、バイクを斜めに進ませているのではないでしょうか。
激坂などでは、斜めに上って、その斜度による重力の抵抗を緩和させることは、よく言われています。
それと同じように、平坦では気にならない、ペダリング死点でのバイクの減速をハンドリング(蛇行)で、改善で来ているのではないか?と思います。
また、タイヤ・ホイールは、直径が大きいため、回転し続ける慣性モーメントが働きます。止まりづらい代わりに、回りだしづらいため、いったん回転数が落ちると、なかなか上がりません。ヒルクライムは巡行と違い、ケイデンスが落ちて回転トルクムラが発生するため、リムやタイヤが軽いほうが、再び回転が上げやすくなります。
この蛇行では、死点で斜めに進むことで、道のりは長くなりますが、タイヤの回転数は下がりません。それがヒルクライムでもトルクムラを無くす工夫なのではないか?と考えています。トルクムラは、人間や車のエンジンでも問題になるため、フライホイールを付けたり、ケイデンス、回転数を上げることで、対策出来ているのではないか?と考えてみました。
通常のダンシングは、体を大きくゆさぶってもできますし、体は動かさずに手だけでバイクを左右に振ることで、進むことも出来ます。
しかし、蛇行は自然なバイクの挙動です。手を軽く添えるだけで、バイクは勝手に蛇行し、踏み込む足に対して、受け止めるようにバイクが傾きます。
その時、手もほとんど左右に振りません。私もやってみましたが、うまくやると、頭のてっぺんから足先まで、手も含めて左右に動かさなくても、ダンシングが出来ます。
これが、レースに使えるかは、私にはわかりません。
ロードバイクのペダリングで使用する筋肉以外を使いますので、鍛えていないと、すぐに疲れてしまいます。普通の人では、ペダリングの筋肉を休ませるために、上半身などの筋肉を使うものと考えます。
ただ、プロの中には、これを推進力として、長時間使用できるようにしているので、これに特化したトレーニングしているのかもしれません。
それに、やはり効率からして良くはありません。斜めに、横に力をかけていますので、無駄な力がたくさんあります。
また、進む距離も若干長くなります。後輪はほとんど蛇行していないので、ほんとにわずかです。
繰り返しますが、ダンシングはシッティングで使わない筋肉を使いますので、シッティングで使う筋肉を休ませることが出来ます。
ただ、コンタドールのように蛇行ダンシングをし続けて山を登ることは、このダンシング専用の筋肉をトレーニングで鍛えており、レースで通用する技術と筋力を持っているのではないかと考えます。プロの中でも、特別な能力なので、素人が同じようには出来ませんが、引き出しという意味では、参考になるかもしれませんね。
蛇行ダンシングのメリットをまとめると、
・左右の力を推進力に変える(スケーティング)
・斜めに走って、タイヤの回転数を落とさない
・バイク自身が、勝手に傾く(自然な動き)
・斜めに走る力を前方に変換する
・シッティングの筋肉を休ませる
となります。(あくまで持論です)
素人がダンシングをやる目的は、シッティングの筋肉以外を使って、疲れた筋肉を休めるものです。
そういう意味では、休むダンシングとは、ただお尻を上げるだけでもいいですし、ハンドルを真っ直ぐにするダンシングでもいいですし、蛇行ダンシングでもいいですし、弱虫ペダルの巻島さんのダンシングでもいいのです。
ようするに、いろいろな形のダンシングが出来れば、使いようによっては、長く、良い筋肉を使い続けることが出来るということです。