入門用のロードバイクを買ったとき、まず最初にブレーキをグレードアップをしましょうとよく言われます。なぜかというと、安全にかかわる部分なので、効きが良い方が良いとか、信頼性のあるものが良いと言われます。
本当でしょうか?安いロードバイクは、ブレーキの効きが本当に悪いのでしょうか?信頼性は無いのでしょうか?
ブレーキの効きというと、ブレーキをかけてから止まる距離の話になります。となると、地面とタイヤの摩擦力も関係してきます。
ブレーキは、ギュッと握れば、ホイールをロックさせられます。ロックできるブレーキであれば、それ以上ブレーキシステムを良くしても、止まる距離は変わりません。
ブレーキをグレードアップすると、弱い力で止まることができるので、利点としては、疲れにくいということです。
ブレーキの構造について考えてみましたので、ブレーキのアップグレードの参考になれば、幸いです。
ブレーキが実際止めているのはホイールです。ホイールとタイヤは、ずれないので、タイヤを止めていることと同じです。ブレーキの役割は、しっかりタイヤを止めることです。
タイヤは地面としっかりくっついていないと、いくらタイヤを止めても、自転車は止まりません。
止まることは、ブレーキ以上に、タイヤの性能が重要となります。
ブレーキは、早く完全に自転車を止める事以外に、スピードを調整する(減速する)働きも求められているため、思った減速力に調整できることも必要です。そのための機能も備えなければなりません。
高グレードのブレーキの方が止まりやすいのであれば、テストの結果があってもよさそうな気がしますが、調べてみてもそんなデータはありませんでした。
停止距離は変わらずとも、握る力や重量など、各メーカーやグレードの優位性は、はっきりあると思うんですけどね。
制動力は、タイヤと地面(路面)の摩擦力で決まります。もちろんブレーキは、その地面をしっかりとらえたタイヤを止められるだけの力が無いといけません。
関係するのは、タイヤと路面の摩擦係数μですが、いくら摩擦係数が高くても接触面積が小さいと、高い摩擦力は生まれません。摩擦係数と接触面積の掛け算になります。
接触面積を限りなく小さくしているロードバイクのタイヤは、このブレーキが一番苦手です。転がり抵抗と摩擦抵抗は一緒ではありませんが、転がりやすくしている分止まりづらい構造になっています。
ブレーキのグレードによる違いは、軽さになります。
キャリパーを太くして、剛性を高くすれば、ブレーキの効きは強くなりますが、重くなります。
そのため、グレードが高くなると、高価ですが、軽くて高剛性の材料を使ったものになります。
グレードを上げるということは、軽量化と、軽く効く(疲れづらくなる)ブレーキになります。
信頼性は、強くかけて壊れなければ、問題ありません。
かなり大雑把な意見ですが、実際にブレーキの性能が悪くて事故が起こったという話は聞きません。保証が付いてくるメーカー品であれば、そんなブレーキを売っていたら、倒産します。
値段が高いからと言って、信頼性が上がるというデータはありません。
ディスクブレーキの利点は、軽い力で強い制動力が生み出されるため、手が疲れないと言われています。それは事実ですが、リムブレーキでもそれは可能です。
まず、ブレーキシューの面積を大きくすることです。効きすぎて困るので、乗り手の技量が無いと、ジャックナイフを起こします。
次にディスクブレーキ効きやすいのは、油圧駆動であることも一因です。これは、リムブレーキでも油圧にすればよいのです。そういう商品は存在します。
しかし、ロードバイクで普及していないのは、油圧が無くても十分ブレーキ力が高いというメリットであり、リムブレーキの構造の優位性であります。
また、リムブレーキの機構は、てこの原理です。そのため、支点・力点・作用点の位置を変えてやれば、軽い力で強い制動力が生れます。簡単に言うと、ワイヤーの付いている腕の長さを伸ばすことです。
また、雨天やホイールが濡れた場合は、リムブレーキは効きづらくなります。
全く効かないわけではなく、乗り手の技量によるものが多くを占めるようになります。
ブレーキを進化させたのはマウンテンバイクです。
マウンテンバイク(MTB)には、いろいろなブレーキが存在します。Vブレーキ、カンチブレーキ、ディスクブレーキなどですが、それは、太くて重いタイヤを止めるためです。
ロードバイクは、効率よく、疲れないで走る為に、ブレーキをなるべく使わないのがテクニックの一つですが、マウンテンバイクはダウンヒルにあるように、下りではいかに減速してスピードをコントロールするかがカギになります。また、下りがメインになるので、頻繁にブレーキを使うことになります。
走る場所も泥や水などがある悪路なので、隙間の小さいキャリパーブレーキでは汚れが詰まって効かなくなります。
そのためにディスクブレーキが生れたようなものです。
ディスクブレーキのパッド方が、リムブレーキシューのパッドの面積より大きいですよね。
実は、ディスクブレーキの方が、構造上、止めるのに強い力が必要となります。
これは、トルクが関係しており、リムブレーキは、路面と接触しているタイヤの半径とリムのまでの半径はほぼ近いので、路面にかかるブレーキ力とほぼ同じ力で止まれますが、
ディスクブレーキの半径はものすごく小さいため、タイヤにかかるブレーキ力の何倍もの大きい力が必要になってしまいます。これは、タイヤの半径と、パッドの当たる半径の比率になり、半径が1/5なら、5倍の力が必要となります。
タイヤを回転させて、手でタイヤを止めてみてください。リムの辺りを押さえると、痛いですが何とか止められます。でも、ディスクの当たりのスポークを触って止めたらどうなるでしょう。おそらくタイヤは止まらず、スポークとフレームに挟まれて、指が折れてしまうかもしれません。絶対にやらないでください。
ディスクブレーキは、構造上強い力が必要にになっているため、あんな大きなパッドとディスクを油圧を使わなければ止まらないというわけです。
ただし、リムはその分仕事をする距離が大きくなります。
同じ重量のロードバイクと人間を同じスピードから止めるという意味では、仕事量はどちらも同じなので、発生する熱量は変わりません。
同じ熱量であれば、容積の小さいディスクローターの方が高温になります。カーボンリムは、熱伝導率が悪いため、放熱せずに熱変形する問題があります。
他のいろいろな乗り物の制動距離を調べてみました。すると、不思議なことに、どの乗り物もだいたい同じ停止距離になります。バスもトラックも車もバイクも自転車もです。
だいたい、以下の表になります。
時速20kmの時は、ブレーキ性能だけの停止距離(空走距離は除く)は、3m、時速30kmの時は、6mになります。
なぜかというと、安全基準により、おおよその停止距離が決められています。その設計通りに、ブレーキやタイヤの性能を決めています。車重が重ければ重いほど、太いタイヤや強力なブレーキが付けられています。
止まる距離の理想は0mです。ブレーキを強くすることは可能です。一番いいのは、地面にアンカーをぶち込むことです。
でも、もし瞬間的に止まれる自転車があったらどうなるでしょうか?
おそらく、人間は前方に飛んで行きます。いくら後傾姿勢でも、ジャックナイフを起こします。これは、前輪の車軸より重心が上にあるため、上に回る力がかならず発生します。
高性能を求めてしまうと、一般道路でスポーツカーが急ブレーキを踏んで止まれても、後ろの車が止まれない可能性があります。また、人間が耐えられないと、そのあとのコントロールが出来ませんし、ケガをします。物を運ぶ乗り物もありますので、積み荷が壊れてもいけません。バスなどは、立っている人もいます。電車もそうですし、高価な競走馬を運ぶ馬運車も急ブレーキはかけられないらしい?です。
たまに、安いブレーキの前を走るのは怖いとか、レースに出られては困るなどとい書き込みを見ますが、デュラエースでは落車はしないのでしょうか?そんなことを言う人こそ、能力の低さを感じます。
自動車はアンチロックブレーキシステム(ABS)の普及により、だれでも最善の同じ距離で止まれることが出来ます。頬杖をついていても、ジュースを飲みながらでも、最短で止まれます。
しかし、ロードバイクは、ライダーのテクニックによるところが大きいです。
ライダーがロードバイクで最短で止まる為にやらなければならないことは、
・前ブレーキをロックしないように握る
・前ブレーキを前転しない限界で握る
・後ブレーキをロックしないように握る
・体を真っ直ぐにする
・姿勢を低くする
・お尻を思いっきり後ろに引く
・ダイエットする
などです。
特に前輪のブレーキは、握る加減が難しく、慣れている人でも限界は難しいと思います。限界を超えた時点で制御不能になりますから、見極めができません。
また、常にブレーキをかけられる体制でいることも難しく、体を起こした状態で後ろを振り返ったあとの姿勢でフルブレーキをかけることは無理だと思います。乗車姿勢に大きく影響されます。
最後のダイエットは、半分冗談ですが、重い人は体重に比例して、止まる距離が伸びます。ブレーキ性能を上げるには、痩せてください。重い人はコーナーで曲がることも苦手になります。
私もフルブレーキをやったり練習したりしますが、後輪がロックしてしまうと、つい前ブレーキも緩めてしまいます。後輪は浮きやすくなる(荷重が抜ける)ので、ロックしやすいです。後輪はあてになりません。
また、下ハンを持っている時にパニックブレーキをかけましたが、右手がブレーキを握れず、後ろブレーキだけになってしまいました。(瞬間的に体が思うように動きません)
ロードバイクは構造的に、ブレーキに有利な点と不利な点があります。
有利な点
・軽量
・ハイグリップタイヤ
・高性能ブレーキシステム
軽さは、停止までの距離に比例します。重いバイク、重いライダーは止まるまでの距離が長くなります。タイヤやブレーキは、ママチャリに比べてかなりの高性能です。後輪がドラムブレーキ(バンドブレーキ)というロードバイクは無いでしょう。
不利な点
・タイヤが細い
・運用スピードが速い
・重心が高い
制動距離に一番関係しているのは、タイヤの接地面積ですが、細いロードバイクのタイヤは、その接地面積が極端に小さいです。
運用スピードとは、ロードバイクを乗っている人が、一般的に出すスピードです。
下りは別として、ママチャリなら10~20km/h、ロードバイクは、20~40km/hでしょうか。
スピードが2倍に増えると、止まる距離は4倍になります。運用スピードが速いなら、場所を選んで乗らなければなりません。
また、タイヤの外径が大きく、サドルも高く、乗車ポジションが高いため、重心が高くなります。
おそらく急制動の練習などをしていると、感覚的に前に飛び出さないように、思いっきりブレーキを握らないと思います。
強力なブレーキはジャックナイフ(前転)の危険があるためです。
タイヤが細く、重心が高いため、いくらブレーキ性能を上げても、制動距離は短くなりません。
ディスクブレーキの売りの一つは、軽い力でブレーキがかけられるので、疲れづらいということがあります。
特に長い下りでは、ずっとブレーキを握ることになりますので、力の弱い人にはつらいものがあります。
ただ、ロードバイクはテクニックが必要な乗り物です。スピードを出すのも曲がるのも止まるのも技量が必要です。技量が足りない人は、まずはスピードを出さないことが先決です。
疲れるから、握力が無くなるから、ブレーキのグレードアップをするということは分かりますが、限度があります。また、人間ですから、完全に疲れなくすることは出来ません。
一番大切なのは、無理をしないことです。自分の技量以上のことは出来ませんので、疲れたら休むのが一番です。ディスクブレーキでも疲れますから、休むべきです。
ホイールもカーボンリムのリムブレーキは、熱で壊れてしまいますので、いったん止まって、しばらく休むべきです。
ブレーキのグレードを上げるより、スピードを落とす方が、確実に安全になります。しかも、お金はかかりません。
まず、スピードを上げると、制動距離が伸びます。いくらいいブレーキを使っても、ゆっくり走っている方が、早く止まれます。
そして、スピードを出すと、ぶつかった時のダメージが2乗で大きくなります。物理の法則では、1/2mv^2なので、スピードの2乗で増えていきます。それは、体やロードバイクを壊すエネルギーとして働きます。止まるまで、そのエネルギーは体で受けることになります。
ロードバイクは非常に不安定な乗り物なので、乗り手の技量に左右されます。曲がるのも止まるのも、下手な人では、理論値通りに止まれません。自動車はABSなども付いていますので、だれでも思いっきり踏めば、最短で止まります。ロードバイクは、思いっきり握ってしまえば、前転してしまうかもしれませんし、怖がって握らないと止まりません。曲がっている最中のブレーキや、ブレーキ中に避けようと姿勢を崩すと、転んでさらに止まらなくなります。
自転車もリムやディスクより、ABSが有効であると考えています。特に個人能力差が大きいロードバイク乗りには、ABSを付けることで、初心者でも多少の安全が担保されます。
まぁ、車同様、ガチガチに安全にしてしまうと、趣味の部分が失われてしまいますけどね。
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ママチャリのマニュアルには、前輪ブレーキ禁止とあり、ロードでもそう主張する人がいます。急制動によって前輪を支点に180度回転し背中を打つ事故を避けるためだそうです。
が、自転車の制動力の7割以上は前輪が提供するので、高速走行のロードで前輪ブレーキを使用しないのは危険です。手を思いっきり伸ばし、サドルに腹をくっつけ、尻をサドルより後ろに移動し、可能な限り後ろに体重を乗せる。尻を後輪に乗せないように注意することは重要です。普段からフルブレーキ姿勢の練習をしておくべきだと思います。
前輪ブレーキの練習は必要ですね。その上で不安定で弱いブレーキ性能で止まれるスピードコントロールも重要ですね