ロードバイクでは、よくタイヤの転がり抵抗の話が出ます。「このタイヤは転がり抵抗が少ない」などというコメントをよく見かけます。
しかし、転がり抵抗とは何だ?と思いませんか?なかなか数字では出てきません。カタログにも載っていません。
乗った人の感想では良く聞きますが、昔は23Cがいいと言っていたのに、最近では28Cのが良いとも言います。
これは、科学的には細いタイヤの方が良く転がりますが、実際に走ってみると、それ以外の原因がたくさんあり、細いだけだとだめということが分かったためです。
タイヤの銘柄以外に重要な空気圧で、タイヤの転がり抵抗を減らす工夫を考えてみました。
転がり抵抗は、転がる(前に進む)こと以外に発生する、エネルギーの損失で、物理現象です。
エネルギー保存の法則では、入れたエネルギーは必ず何かに使われており、湧いて出てくることも、突然消えることもありません。
テスト方法としては、ハブ(駆動ギア部分)を回す力がタイヤを介して地面を押す力が、何%減るか(テスト機器ではローラーを回すトルク)を測定します。
または、タイヤが回り続けようとする力が、時間がたつにつれ、何%減るかという測定方法もあります。
比較テストとしては、同じ条件で行うことが鉄則なのですが、実際に使う状態とは、少し違います。
テストでは主に、平らな面に押し付けて転がした時に、損失が出ないことが重要となります。
そのため、結果としては、変形せず、接触面積が小さい方が有利になりますので、空気圧が高く、細いタイヤが自然と転がり抵抗が少ないということになります。これは、少し前までは、23Cタイヤ崇拝の時期までは信じられていた理由だと思います。
しかし現在では、25Cや28Cを使っても、特に成績が下がるわけでもなく、選手の好みでは、太いタイヤの方が良い場合もあります。
それはなぜかというと、すべてつるつるの平らな路面ではないからです。
各メーカーのタイヤをテストし、数値化しているサイトを見つけました↓↓↓
抵抗になる現象を考えてみます。
タイヤの変形、摩擦の抵抗
・タイヤを変形させる力
・地面とのずれ・摩擦
・空気抵抗
路面に影響される抵抗
・凹凸により上下する抵抗
です。
タイヤそのものの抵抗は、タイヤが硬くて変形せず(空気圧を高くする)、細くすれば解決します。
タイヤが柔らかいと、タイヤは変形します。ゴムの変形は仕事をしたことになりますから、熱に変わってロスになります。
路面との摩擦は、ゴムの材料(コンパウンド)の違いになり、ここはメーカーの努力によるものです。
実際は、どんなに空気圧を高くしても、人間の体重でタイヤは少し潰れながら走っています。
また、タイヤも線のように細くなると、ブレーキが効かなくなり、曲がると滑ってしまいます。
以下のリンクは車のタイヤですが、転がり抵抗について簡単に書かれています。
地面の凸凹などで、上下に振動すると、その分がエネルギーロスとなって、スピードが落ちます。
物理のテストでは、なめらかに方向が変わるという問題が良く出ますが、その時はエネルギーのロスは無いものと考えます。ですから、また方向が真っすぐ進行方向に戻れば、同じ推進力に戻ります。
しかし実際は、滑らかに進行方向を変えることは難しいです。摩擦や変形のロスが発生します。
でもロードバイクは、大きいタイヤ径と滑らかなベアリングで問題を最小限に抑えています。
ただし、それ以上に問題になるのは物体を上方に持ち上げる力が、減速するロスになります。
1cmの段差を乗り越えるのは、乗り手とロードバイクを1㎝持ち上げるのと同じエネルギーです。
小石でも、段差でも、乗り上げれば、人間とロードバイクを持ち上げることになります。
例えば、60kgの人間と10kgのロードバイク合わせて70kgが1cm持ち上げてください。結構重いですよね。
計算では、100gにかかる重力は1Nなので、70kg=700N
700N x 0.01m = 7J(ジュール)になります。
ジュール(仕事)は、秒で割ると、仕事率(ワット)になりますから、皆さんおなじみの単位です。
7Jを1秒間で回復させようとすると、1秒間7W多く漕がなければなりません。
実際には、進行方向から上方に向きを変えられるのに、当たる角度などの問題もあるので、もっと大きいロスがあると思います。
まぁ、大した数字ではないかもしれませんが、積み重なれば重く感じることになります。
でも、アスファルトも、実は小石を固めたもので、多少の凸凹はあります。これで上下させられると、その上下がロスになります。
コンクリートや路側帯の白線はツルツルなので、楽な力で走れますよね。
硬いタイヤでは、小さな凸凹でもライダーを持ち上げる力でエネルギーを失います。
しかし、柔らかいタイヤであれば、タイヤが縮むロスだけで、ライダーを持ち上げずに済みますので、スピードの減りは最小限で済みます。
先ほどの計算で、70kgを持ち上げるパワーロスに比べれば、ゴムを変形させる力は小さいものです。
乗り心地の良いタイヤは、基本的に太くて柔らかいです。ママチャリのように大きくて、たくさん空気が入れば、凸凹道でもタイヤが変形して自転車はそれほど上下しません。乗り心地がいいということです。
その代わり、常に重くて太いタイヤが変形しながら回りますので(必ずタイヤはつぶれながら走っている)、ずっとエネルギーをロスしながら走っていることになります。
直進時のタイヤのゆがみと、コーナリング時のタイヤのゆがみは違います。主にサイドの剛性が影響します。傾けたときにゆがみが大きいと抵抗が大きくなります。
軽いタイヤ、細いタイヤは剛性が小さくなるため、まっすぐ走っている分には良いのですが、車体を傾けるとタイヤがゆがみ、転がり抵抗が増加します。
また、接地抵抗と変形による抵抗は別になります。コーナリング時に変形は少なく、接地面積がしっかり増えるタイヤは、コーナリングも速いイメージがあります。
コーナリングやダンシングでスピードが落ちるかも含めて、タイヤを選ぶようにしましょう。
しかし、タイヤが柔らかいと、平らな道でも常にタイヤが変形して、変形ロスが発生します。
硬すぎると上下動が発生し、持ち上げるロスが発生します。
路面に合わせて、固いタイヤ、柔らかいタイヤを選べればよいのですが、そんなに簡単に付け外しは出来ませんし、路面は常に変わります。
しかし、タイヤの種類以外に、タイヤを柔らかくしたり、硬くしたりする方法があります。
それは空気圧です。
ゴムの固さや剛性もありますが、空気圧である程度調整できます。タイヤの種類以上に、空気圧の決め方が重要になってきます。
ただし、あまり細かく決めようとしても、そんな幾何学的な規則正しい凹凸の道路は無いですから、普通にサイクリングしている分には、乗り心地良く、漕ぐのが重くならない程度に柔らかめにすれば問題ありません。路面も一般道では、凸凹もあり、砂利が落ちているところもあるし、穴の開いているところもあります。リム打ちしない程度に、空気は低めにすればよいと思います。
細かく決める場合があるのは、レースなどです。
試走などでコースを確かめると思います。その時に空気圧を決めることになります。
サーキットなどは、管理されている路面なので、ほとんど凹凸はありません。小石も清掃されているでしょう。(ツインリンクもてぎはきれいでした)
他にも、スピードの遅いヒルクライムレースや、コーナーの少ないタイムトライアルなどは、パンパンに硬くした方が良いでしょう。
公道を利用したレースでは、路面の良いところもあれば、悪いところもあるでしょう。つぎはぎ路面もあるし、マンホールやグレーチングがあるところもあります。
全体的に路面が良ければ、空気圧高めで、悪いところは我慢することになります。
ヨーロッパでは石畳のレースもあるので、ずっと路面が悪い場合は、空気圧は少し下げることになります。
正直、路面に対して、空気圧をいくつにすればよいかというのは、数字では決められません。経験や感覚などで、乗り手の好みで決めることが多いでしょう。そのため、初心者には難しいかもしれません。
データを取るのであれば、空気圧を変えて、タイムを測って決めるのですが、とても面倒で、時間と労力がかかります。
しかし、もっと簡単な方法があります。それは、手やお尻の痛さです。
まずは、空気圧を最大にして、そのコースを走ってみてください。ガタガタと自転車が振動し、手やお尻をずんずんと突き上げてきて痛くなったら、空気圧が高いということです。
空気圧を徐々に下げていって、お尻が痛くない、車体が暴れないというところベストかと思います。
これは、転がりロスの進行方向を変える力、要するに、自転車と乗り手を持ち上げる力に奪われてしまうのを避けるということです。サスペンションがあればよいのですが、重量の関係で付いていない以上、クッションというのはタイヤの空気圧ということになります。
昔は良くF1を見ていたので、タイヤやサスペンションについて考えていたのですが、速いF1マシンは、①エンジンパワーを伝える太いタイヤ②路面の凹凸に反応するサスペンション③空気・走行抵抗を減らすタイヤの細さ④コーナリング時の接地性です。
ロードバイクは、路面で滑ることはあっても、人間なのでパワーで空転することはありません。しかし、サスペンションが無いため、コーナリング時にマシンが跳ねて、グリップを失うことがあります。プロでもテクニックでカバーすることは無理なので、リスクを減らす走り方が重要になります。
乗り手のテクニックでも多少カバーできます。要するに、重量が重い人間が上下しなければよいのですから、ちょっとお尻を浮かせて、膝を曲げて衝撃を吸収しても、ロスが減ります。
人とロードバイクが70kgの場合、60kgの人は振動を吸収してあげれば、10kgのロードバイクだけの上下運動のロスで済みます。そうすれば、1/7のロスで済みます。(その前に、人間が体を持ち上げるのに力を使ってしまいますが)
ずっと同じ路面状況ではなく、一部だけガタガタなところがあれば、そこだけ振動を膝で吸収することで、ロスの低減が可能です。
なお、これらは、直線だけのタイヤの転がり抵抗だけの話です。テクニカルな下りやコーナリングは、タイヤを寝かせたときのグリップや剛性が大きく関係してきますので、タイヤの性能が重要となります。
変形することは、熱に変わり、パワーロスするということですが、他のスポーツでも関係しています。
例えば、ボールは硬いほど、エネルギーロスが減り、遠くに飛んだり、跳ね返ったりします。
プロ野球ファンの人に、物理的にホームランを打つために有利な条件とは?と聞かれて、いろいろ考えました。
結果としては、
・ボールが硬いこと
・バットが硬いこと
・重いバットを速く振ること
・バットを振る、ボールを打ち返す強靭な肉体
ではないでしょうか?
当然テクニック(投球の読み、芯で当てるなど)も必要ですが、物理的には、こんな感じです。
いろいろ条件はありますが、基本硬い方が、変形ロスが少なく、効率よく跳ね返ります。
硬い物も、完全に変形していないのではなく、わずかに変形していますが、戻る速度がとても速いということも理由になります。
身近にあるボールの中では、スーパーボールが良く弾み、スポーツ界では、ゴルフボールが一番はずみます。バスケットボールやサッカーボールも良く弾み、次に公式野球ボールあたりです。
パチンコ玉は良く弾みますが、鉄球など重くなると、塑性変形(元に戻らず凹んだまま)してしまい、跳ねません。
アメリカンクラッカーやニュートンのゆりかごは、いつまでも跳ねていますね。
統一球だの、飛ばないボール問題もありましたが、道具は規定があるので、変更できません。
ホームランを飛ばすとなると、努力で何とかできるのは、選手の肉体くらいです。
人間は複雑な形をしているので、バットを振る腕だけムキムキにすればいいわけではありません。
人間の動きが、どのように成り立っているのかというと、
・地面にがっちり固定されるシューズ、体重
・バットをすごいスピードで振り回す筋力
・ぶれない関節
・関節を固定する筋肉、体幹
・正確にバットを振るテクニック
・ボールを打ち返す筋力、体重
となります。
何気に、選手の体重は重い方がいいようですね。昔の頑張れタブチ君とか、そういうイメージです。野球選手はお尻が大きい方がいいとも聞きます。
体重は重い方が良いのですが、スイングスピードが速い方がエネルギーが大きくなります。
物理の法則では、1/2・mv^2(2分の1エムブイ2乗)なので、スピードvの2乗で大きくなります。ボールの重さは一定なので、ボールの初速が重要ですが、わずかなスピードの違いが、2乗に比例して大きくなります。
タイヤだけではなく、各パーツも硬い方が、ロスがありません。
よく、柔らかくて進まないというのは、その通りで、パーツがゆがんでしまうと、熱に変わってパワーを逃がしてしまいます。
そして、1/2・mv^2の法則より、重くてスピードが速い方がエネルギーを多く持っている反面、このエネルギーを作るのは人間ですので、とても大変な力が必要になります。
特にスピードは2乗のエネルギーが必要なので、1km/h速く進むのにも、多くのエネルギーが必要です。
余談ですが、体重100kgの人が時速20kmでぶつかってくるのと、体重50kgの人が時速40kmでぶつかるのでは、計算では50kgの方が、2倍エネルギーが大きくなります。40km/hでぶつかった方が相手も自分も大けがをするということです。スピードは出さなければ出さないほど、安全になります。