ロードバイクでジャックナイフをやったことはありますか?私はあります。前転して、頭から落ちました。
これは障害物にぶつかって、前転したのですが、ロードバイクの場合、状況によっては、ブレーキングで前転することがあります。
感覚的には、下りや高速走行で、立ち上がってや前重心にしていると、前に吹っ飛びそうになります。
ですので、基本としては、姿勢は低く、腰はひいてというやり方を守っていれば、ジャックナイフにはならないです。それと、スピードを出さないことが基本になります。
それでは、どんな状況でジャックナイフが起こるのか?物理の法則から考えてみました。
めんどくさい方は、基本を守っていれば問題ないので、興味がある方は読んでみてください。
下の図のように、乗り手とロードバイクの重さは、前後のタイヤにかかっていますが、その質量は重力(青い矢印)で下に引っ張られています。前後輪のど真ん中に重心があって止まっている時は、前後輪に半分ずつ重さがかかっています。
重心は、質量の中心です。丸い形ではど真ん中でわかりやすいのですが、人間とロードバイクの重心はコンピュータなどで計算しないとわかりません。ただ、だいたい体の方が重いので、中心よりやや上の方に重心があると考えられます。
ブレーキをかけると減速力(黄色の矢印)が働きます。実際は自転車が止まる方に減速して、人間が前に慣性で進む力との差になりますが、自転車から見ると、人間が前の方に進む力として働きます。
この減速力と重力を合わせた力(合力、赤い矢印)は、斜め前方に働きますので、前のタイヤ側に多く力がかかります。
ジャックナイフをするかどうかは、重心と車輪の中心を通る線を引くとわかります。
図の緑の線がそれですが、ブレーキの力が強くなる(減速力が強くなる)と、赤い合成の矢印はどんどん前に行きます。
この合成ベクトルが、緑の線を越えると、ジャックナイフをします。
なんだか怪しい説明ですが、物理の法則でそうなります。
重力加速度と、ブレーキの減速度は同じ単位です(m/s^2)。重力加速度は一定で、9.8m/s^2と習ったと思います。加速度なので、1秒ごとに9.8m/s(毎秒9.8m、時速35km)のスピードが上がっていくということです。空気抵抗が無ければ、10秒後に秒速98m(時速353km)になるということです。
減速力も同じ意味ですが、例えば急ブレーキをかけたとき、時速35kmから3秒で止まったら、1秒で約12km/hスピードが落ちるので、減速度3.3m/s^2と、重力加速度の1/3になります。これでも結構なブレーキです。
そして、重力と減速力の比から、三角関数を使うとその角度が出ます。
tan-1(1/3)は、約18度です。重心から重力方向と前輪ハブの角度が18度であれば、これ以上のブレーキで、前転してしまうということです。
まぁ、18度というと、かなり狭い感じがしますが、私のイメージで実測してみたところ、体を起こした状態で、前輪ハブから後ろに50㎝、上に100㎝に重心が来た時、角度は26度になります。これでもまだ余裕はありますが、前よりに座ったり、立ち上がったり、下り坂だったりすると、その余裕はなくなります。
また、何かにぶつかって(例えば前方の落車にぶつかったり、穴に引っ掛かって)、1秒で20km/hより速い減速が発生すると、ジャックナイフするかもしれません。
これらより、ブレーキングのフォームを取って、フルブレーキングすれば、ジャックナイフをすることはほぼありませんが、何かにぶつかって、予想以上の減速度が働けば、前転することがわかります。
また、上の図から、姿勢を高くする、低くするで、この緑の線の角度は変わります。また、重心を後ろに持って行く(お尻を引く)と、前輪ハブとの角度が大きくなって、ブレーキが安定することがわかります。
よって、重心を低くする、お尻を引くことが、安定したブレーキングになるということがわかります。
また、下の図のように、下りになると、重力が前に傾きます。こうなると、合力の前方向への傾きが増えてしまいます。10%の斜度は、約6度です。16%になると、約9度になるので、かなり合力は前に傾き、前転する可能性が高くなります。下りはスピードが出やすいですが、50km/hなどを出していて、アスファルトの穴などに落ちた場合、前方へ放り出されることは免れませんから、スピードを出すことは自殺行為になります。
下りで安定したブレーキングをするのに、姿勢を低く、お尻を引くというのは、この計算に合致していますが、スピードを出せる状況でないことを付け加えておきます。
以上のまとめですが、図にすると、ブレーキに関していろいろ分かりました。
まず緑の線の角度が小さくなると、安定しません。
安定するためには、角度を大きくする必要があります。
・姿勢を低くする
・ホイールベースを長くする
ということになります。
そして、重心の位置によって、前輪との角度を増やすこともできます。
・腰を後ろに引く
ということで、前輪との角度が大きくなります。
・後ろ乗り
の方が、ブレーキは安定します。前乗りの人は、ブレーキ時に腰を引くという動作が大切かと思います。
走る場所では、
・下りの方が危険
となります。上りで前転するのは難しいと、感覚でわかるはずです。
乗り方としては、
・立ち上がる
・サドルの前に腰を落とす
というのが、危険ということがわかります。
サドルの前に腰を落とすというと、スーパータックがあります。これは重心を下げていることは良いのですが、下りで前輪に完全に体重を乗せてしまっているので、かなり危険な状態だということがわかります。素人が重心を下げられなかったり、スーパータックに移行しようといったん前に体を移動しなければならないので、禁止されるのも分かる話です。ブレーキをかけない、つまずかないが前提であれば出来ますが、危険予測の上では成り立ちません。
機材としても、
・サドルを低くする
方が安定します。当然ポジションなので、最適な位置にしなければなりませんので、高い人は注意が必要です。サドルの高さは、コーナリング時にも同じような影響を与えます。
フレームに関しては、
・ホイールベースが長い
方が安定します。短い方が小回りが効きますが、安定性は欠けます。
ミニベロなんかは、ホイールベースが短いものが多いですし、車軸の高さが低い分、人間の重心が高くなってしまうので、安定性が悪くなります。ミニベロでフルブレーキングは出来ないと思います。
リカンベントは、重心が低くなっているので、前転はしないでしょう。
ロードバイクでは、前輪のハブの高さを上げる方法(タイヤの外径を大きくする)ことも一つの方法です。36インチ(直径約900mm)のサイズもあると聞きます。自動車は、車軸も低いですが、重心も低いため、前転はしません。ロードバイクはサドルの高さは足の長さに対して変化しないので、ハブの高さを相対的に上げるしかありません。
ウイリーも、同じ計算で出来ます。ウイリーのコツは、急加速と重心を高くすることです。ただ、これはひっくり返るだけで、そのあとの安定性は、また別のテクニックになります。
以上がジャックナイフが起こる理屈です。
前転しないことが重要ですが、急ブレーキをかけないことが一番です。
それには何より、スピードを出さないに越したことはありません。特に下りで何かあった時には、ブレーキをかけても、ぶつかっても、終わりです。
ロードバイクは転がってスピードを出すことを追求しているため、止まることが優先されていません。そのことはわきまえて、安全第一で乗りましょう。