クライマーたちの本に書いてありました。激坂は体重が重い方が有利だと。ダンシングでペダルに体重をかけて上れるからだとか。
確かに、激坂をシッティングだけでクリアする人は少ないと思います。スピードが出ないので空気抵抗は関係なく、筋力がなくとも体重をかけるだけで高出力が得られます。
私の考え方ですと、体重100kgの人がペダルに全体重をかけたとき、瞬間的に1000Wのパワーが出ます。この計算を基に、激坂をクリアするためのパワーを計算してみました。
では、斜度が大きくきつくなるほど、どのくらいの後ろ向きの力がかかるのか?
計算してみました。
坂(上り)では、どのような力が働くのでしょうか?
平らなところ
通常平らなところへは、車体と体の重量は、真下にかかります。後や前へ引っ張る力は働きません。
坂道では
道が登り坂、地面が傾くと、垂直にかかっていただけの力が、傾きに沿って斜め下の方向に働く成分が発生します。
これは、ホイールが滑らかに回ることが前提で、角度の分だけ、引っ張る力が発生します。
後ろに引っ張る成分が発生すると同時に、路面に接地する力は減ります。
分かりやすく、もっと大きい角度(斜度)の図を示します。
分かりやすく、45度の斜度にしました(斜度で言うと100%!こんな坂はありません)。
青い矢印が、重力(前輪・後輪の合算です)
ピンクの矢印が、斜度に対して水平な、自転車を引っ張る力。
緑の矢印は、地面に垂直に接地する力になります。
力の成分を計算で表すと三角関数になる
緑とピンクの矢印は、直角になりますので、三角関数で計算できます。
下記のように向きを変えるとわかりやすいです。
これを、三角関数の式に当てはめますと、
式 |
B(後ろ向きの力) = A(重量) x cos θ |
C(タイヤ接地力) = A(重量) x sin θ |
となります。計算するのは面倒なので、表・グラフにしてみました。
例として、重量70kg(体重63kg、車体7kg)として、計算してみました。
斜度と後ろ向きの力の成分(表・グラフ)
坂と水平に後ろ向きに引っ張られる力は、(角度が小さいので)斜度にほぼ比例して強くなっていきます。
(車輪の前後で分散されますが、両輪足して、まとまったものとして計算しています)
これは重りをぶら下げているのではなく、後ろ向き引っ張られる力です。(重力が後ろ方向にあるとして、その重さの重りをぶら下げているか、その荷重でバネを引っ張っているということ)
抜粋すると、
5%(約2.9度)で、3.5kg。
10%(約5.7度)で、7.0kg
30%(約16.7度)で、20.1kg
だそうです。
結構な力で引っ張られているのですね。しかも斜度が増えていくとどんどん強くなっていきます。
重量70kgで計算しているので、さらに重くなると比例して増えていきます。体重や車体が重い方が、ヒルクライムが遅く(苦手に)なる理由はここにあります。
でも、これってどのくらいの力のでしょうか?ワット数で言うと、どのくらいでしょうか?
引き続き考えてみます。
斜度%を、角度に変える計算は、下記のブログで書いています。
坂で後ろに引っ張られる力は、何ワット?
計算に必要な要素(タイヤ径、ギヤ、クランク長)
上り坂で、後ろ向きに引っ張られる力は、タイヤを逆に回転させることと同じです。要するに、ロードバイクであれば、ペダルを踏んで、タイヤの外周に後ろ向きに対抗する力をかければ釣り合うことになります。
タイヤから、ギヤ・チェーンを伝わって、ペダルにかかる力を計算すれば、ローディにとって、どのくらいのワット数のロス(余計に必要な力)になるのかがわかります。
計算するための図が下の通りです。
計算する順番は、
①タイヤの外径(半径)と後ろ向きに引っ張る力からトルクを計算
②リアのギア(スプロケ)の外径で、チェーンを引っ張る力
③チェーンリングの外径でのトルクを計算
④トルクからクランクの長さ(半径)
この計算をするために必要な要素は、
タイヤ、ギア、クランクの半径です。
逆方向に働く力がわかっているので、あとは半径より、回転物のトルクを求めれば、伝達された力がわかります。
計算してみた
下の表にまとめました。半径は全部わかっています。(私のバイクのインナーローの数値です)
チェーンは力をそのまま伝えます。タイヤとリアのギア、フロントのギアとクランクはくっついて回転するので、トルクは同じです。
半径(mm) | 力(kg) | トルク(kg・mm) | |
①タイヤ | 340 | 斜度による | 半径X力 |
②リアギア(28T) | 57 | トルク÷半径 | ①と同じ |
③フロントギア(34T) | 69 | ②力と同じ | 半径X力 |
④クランク | 170 | トルク÷半径 | ③と同じ |
④のクランクにかかる力が、ペダルを踏む力とイコールになります。
要するに、斜度が何%だと、ペダルをどのくらいの力で踏めば釣り合うかがわかります。
今回激坂ということで、30%に挑戦。タイヤを20.1kgで引っ張るので、20kgを代入します。
半径(mm) | 力(kg) | トルク(kg・mm) | |
①タイヤ | 340 | 20 | 6,800 |
②スプロケ(28T) | 57 | 119 | 6,800 |
③Cリング(34T) | 69 | 119 | 8,232 |
④クランク | 170 | 48 | 8,232 |
青文字の48kgで、30%の激坂と釣り合うことになります。
元の設定が63kgの人なので、ロスはありますが、体重をかければ少し前に進むことになります。(上死点下死点では、体重すべてがペダルの回転にかからないので、バックしてしまいます)
逆に言うと、48kgの力で踏むと、タイヤは地面を20kgの力で蹴ります。
踏む力に対して、タイヤに伝わる力は、およそ2/5になることがわかります。(その分、前に進む距離が伸びるということです)
そして、私のパワーの計算では、48kgのペダルの踏み込みは480Wに相当します。これ以上出さないと、30%の斜度は上れないことになります。
試しにアウタートップに入れたらどうなるでしょう。
半径(mm) | 力(kg) | トルク(kg・mm) | |
①タイヤ | 340 | 20 | 6,800 |
②スプロケ(11T) | 22.5 | 302 | 6,800 |
③Cリング(52T) | 105 | 302 | 31,733 |
④クランク | 170 | 187 | 31,733 |
20kgの力が、ペダルで187kgにも増えてしまいました。これはダンシングでも無理でしょう。ワット数で言うと、1870Wです。タイヤにかかる力の9倍以上です。
もちろん、アウタートップでこんなことする人はいません。(競輪の選手は知りません。そういえば、競輪学校に激坂がありますね)アウタートップは高速巡行の為です。踏む力に対して、タイヤが地面を蹴る力は1/9になってしまいますが、その分距離を多く進めることになります。いかに重いギアで走る人は、足の筋肉がヤバいということになります。
まとめ
まとめますと、
体重・・・63㎏、車体重・・・7㎏、合計70㎏で、
斜度30%は、後方に20㎏の力で引っ張られている。
この力は、ペダルに48㎏の力(480W)で踏めば釣り合う。
ということになります。
各パーツのロスは当然あるので、もっと力を出さないと登ることは出来ません。
私も30%近い激坂を上ったことはありますが、そんなパワーは持っていないと思います。(パワーメーターを持っていないのが弱点)
しかし、ダンシングを組み合わせることによって、体重分はパワーとして登坂力となりますので、初心者でも、筋肉の弱い人でも、(30%は無理として)テクニックで激坂をクリアできるはずです。
ダンシングの弱点は、長続きしないということです。全体重をかけるということは、スクワットをやっているのと同じです。ですので、短い激坂にしか通用しません。
それでも、このくらいの力で上れるという参考になれば、幸いです。
(おまけ)トルクとは
トルクは、物体を回す力です。
てこの原理と同じように、トルクが一定であれば、回転力は、半径の大きいところは小さい力になり、半径の小さいところは大きな力になります。
半径が小さいところは大きい力が必要ですが、少ない移動量で回転数を上げることが出来、逆に半径が大きいところは、大きな移動量が必要ですが、小さい力出回ります。
数字で言うと、半径20㎝のところを10kgの力で回すと、トルクは20㎝x10kg=200kg・cmになります。
半径10㎝のところで同じ200kg・cmのトルクを出そうとすると、20kgの力をかけなければなりません。
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